結核隔離入院ダイアリー

隔離入院29日目:最終回

予想通り、シャバの生活は忙しい。退院の喜びを噛みしめる時間もないまま、いつも通りの忙しい日常に戻った。

隔離入院29日目の朝、予定通り最終検査のための淡を出し、夕方に出ると言われた結果を待つことになった。大丈夫だとは思いながらも、気を紛らすための仕事も何にも手につかったので、病室で荷物の整理をしていた。

結果は予想以上に早く出た。午前11時くらいに担当のお医者さんが病室にやってきて、ためらいも、何のためもなく、さらっと検査結果の紙を出した。

「陰性ですね。」

ドラムロールも拍手も歓声も何もなかった。他の患者さんが隣にいる手前、本人も歓喜の声をあげることも、踊り出すこともできず、この瞬間を夢見て、一か月耐えてきた割には、本当にあっけない結果発表となった。小さくガッツポーズみたいな。

そこからは、事務的な退院の手続きと荷物の整理を済ませ、迎えに来てくれる母とマイクを待った。

他の患者さんにはあまり心は開いていなかったけど、同じ病室の二人と初日にご飯を残して心配してガーナチョコレートをくれた津川雅彦には別れの挨拶をした。

あまり多くを話すことはなかったし、同じ病室の二人には結構自由にしていた自分を疎ましく思っているのかなと思ったが、今日が退院という事を伝えたら、まるで自分の事のように喜んでくれた。

他人の退院を素直に喜べるのは、自分にもその時が絶対に来るという希望を感じることができるからなんだと、過去の他の患者さんが退院した時に感じたことを思い出した。

約一か月の隔離入院を終え、初めて外の世界に出た日の事を一生忘れないと思う。

  • 車でマイクでお迎えに来てくれた時に安堵の表情。
  • 体全身で喜びを伝えてくれたさし美。
  • 帰りの道中で立ち寄った葉山のスターバックスでの店員の姿にすら感動している自分。
  • 明日退院だと思っていた保健師さんに挨拶しに行った時の、お化けでも見るような驚きの顔。
  • 久しぶりの外食で泣けるくらい美味しかったイタリアンとノンアルコールカクテル
  • 心配をかけ過ぎた母親の顔。

この入院生活のおかげで、それまでは当たり前だった些細なことでもいちいち感動してしまうような、そんな感動ハードルが低い生活が当分続きそうな気がする。

職場や近所で久しぶりな人に会って、「おめでとう!」とか「良かったね!」という言葉をかけてもらう度に、内心少し恥ずかしいような、自分が転校生や家出少年、そしてやはり感じてしまう刑務所帰り感を感じてしまい、少しこそばゆい。

でも、やはり気にかけてくれる人が傍にいるということに感謝したいと心から思えるし、これから、12月18日まで毎日薬を飲み続けるという日々は続いていくけど、支えてくれた家族や友人に恩返しできるように、そしてこれ以上心配かけないように、今ある自由を当たり前と思わず日々を過ごしていきたいなと思う。

入院宣告から今日まで、あの小さい空間で感じた事、考えた事、そしてシャバに出たらこうしようと決めた事、全ての事に意味があるなら、この一か月を今後続く長い人生で必要だったんだとおもえるような生き方をしていきたい。

「結核隔離入院ダイアリー」-完-

名前に謎の英語ミドルネームが入ってますが、100%純粋な日本人です。京都出身で、現在は湘南エリアにアメリカ人のパートナーと愛犬さし美と暮らしています。

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